娘へ

あなたはこうしてできています

事実をもって説得する、何度も信じてやる

2歳でも意外と話が通じるんだな、と思ったことがありました。

 


恵美が2歳半くらいで、和美が10ヶ月くらいだったころのことです。

家から歩いて20分ほどのショッピングセンターに、ベビーカーで2人を連れて行きました。

その帰り道、それまでベビーカーに乗っていた恵美が「自分で歩く!」と言うので、降ろして一緒に歩きだしました。和美が乗るベビーカーをとーさんが押し、恵美が近くをチョロチョロしながらついて歩きます。


住宅地の裏の舗装された幅1mほどの歩道で、車が来ない安全な道です。20mくらい離れて線路が並行しているのですが、歩道と線路の間は土手のように土を盛って木を植えてあるので、わざわざそっちに向かって歩いていかなければ危なくはありません。


ですが、わざわざそっちに行くんですよね、子供って。

歩道の外は芝生や荒れた地面。和美を乗せたベビーカーでは入っていけないので、恵美が歩道からあまり離れると連れ戻しに行くのも難しくなります。


「そっちは線路だから、危ないよ!そこまでだよ!」

線路の方に歩いて行く恵美に声をかけました。一度は止まりますが、ジリジリと少しずつ、イタズラっぽい笑みを見せながら線路の方に動いていきます。盛り土の向こうがどうなっているのか興味をそそられるのでしょう。それに、坂道を登り降りするのは楽しいものです。

恵美は結局、とーさんの言葉を振り切って線路の方に近づいて行ったので、ベビーカーを歩道に残して走って恵美を連れ戻しにいきました。


恵美を抱き上げると、「歩く!歩く!」と叫んでジタバタと足をばたつかせます。

「歩くのは良いけど、家に行くんだからね。とーさんと一緒に歩くんだぞ!」

「はーい!」


ハイの返事を聞いて、恵美を下に降ろします。するとまた少しずつ線路の方に行きます。声をかけても戻ってこないので、また連れ戻しに行きます。


これを5回繰り返しました。


とーさんはもう怒った!そっちは危ないって言ってるじゃん!

 

恵美を抱っこして連れ戻し、無理やりベビーカーに乗せて歩き始めました。

「歩く!歩く!」と大声で泣き出す恵美。

とーさんも泣き声に負けずに、この時ばかりは大声でまくし立てました。

「歩く歩くって言うけど、もう何回も歩いたよね?家に行くって、とーさんと手をつないで歩くって約束したよね?でも、ちょっと歩くと、すぐとーさんから離れて向こうに行ってしまうじゃん。一人で遊びに行ってしまうよね?もう5回も同じこと繰り返してるよ。だからベビーカーに乗って帰ります!とーさん、間違ったこと言ってるか!?」


ギャーギャー騒いでいた恵美は、静かになりました。


「そういう嘘をつくのは許さないよ!わかった!?」

「はーい。。。」元気なく返事をして、そのまま黙り込む2歳児。

 


少し意外な反応でした。恵美がどう考え感じたかはわかりませんが、とーさんの言っていることがある程度は理解できたように見えました。

危ないことをしたりして大声で怒鳴ることはたまにありますが、恵美はたいてい、ニコニコ(ヘラヘラ?)しながら「はーい」と返事をしてすぐ逃げようとします。とーさんの言葉が響いているようには見えません。

ですが、その時は違いました。

 

 

歩道が線路からそれて安全な場所まで来たところで、「もう安全だから、降りてもいいよー。一緒に歩こっか!」と元気よく誘いましたが、恵美はしょぼくれた顔で降りてこず、そのままベビーカーに乗って家に帰りました。


家に着いたらすぐ恵美を抱っこして、「とーさんの言っていること、わかってくれて良かったよ。わかってくれて嬉しいなー。ありがとう。」と、笑顔で話しました。

するとようやく、いつもの元気な恵美に戻りました。

 

 

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この日とーさんが考えたことが2つあります。

 


1つは、事実をもって説得(説教)するということ。

その事実とは、自分と相手が共通認識を持つ事実でなければいけません。


とーさんが見て間違いのない事実であっても、子どもが見ていないのでは(子どもが理解や納得ができないので)意味がありません。

逆に、子どもが見ていてもとーさんが見ていない事実は、説得の材料には使いません。子供と認識が食い違ったとき、とーさんは十分な確信を持って話すことができません。

子どもが何か悪いことやマズイ事をしてしまっても、現行犯逮捕でなければとーさんは動かない、ということです。


事実が説得力を持つというのは、相手が大人でも子どもでも同じことだとは思っていましたが、2歳の幼児にも通じるとは本当に意外でした。考えたり判断したりする力が、それなりに育ってきているようです。

 


ところで少し余談ですが、

恵美が3歳になり、現行犯逮捕が良く効くようになりました。

「おい!今のとーさん見たぞ!」と言うと、ハッとして動きが止まります。そのあと真剣な顔で叱りながらも、決まりや良いこと悪いことをちゃんと(守れなくても少なくとも)認識していることに、内心、喜んでいます。(それと、鬼ごっこで捕まえた時のような嬉しさもある。)

 

 

 

もう1点。

何度も信じてあげること。


多くの親御さんがそうかなと思うのですが、とーさんは子供たちが可愛くて仕方のない、愚かな親バカですよ。

子供が何度失敗しても応援しようとするし、

子供に何度裏切られても、もう一度信じてあげようときっと思うだろうし、

もう少し大きくなってウソをつかれても、次は本当なんじゃないかと期待してしまうでしょう。

ウンザリもしますよ、もちろん。でも、心のどこかでは、「次はきっと、、、」と思うんでしょうね。


とーさんは何度も信じます(少なくとも5回は)。

たとえ子供の素行が悪くても改善しなくても、それに対するとーさんの振る舞いとはあまり関係ないというか、結果ではなく動機の話です。親は愚直に、ただ子供のことを信じる、そんなもんなんじゃないかなと思います。

子供が悪いことをしていたとしたら、きっと本人も悪いと分かっています。「それでもとーさんは信じてくれた」という事実は罪悪感とともに記憶の奥底にいつまでも残り、自分が他者(世界)とつながっているという感覚を育みます。この感覚があれば、自己肯定感を持ったり、人を信じたりすることができるようになると信じています。これがとっても大切な、「自分はこの世界に生きていて良いんだ」という、生に対する基本的な肯定感ですよね。